オン ザ ソファ

一人きりで暮らしているから、どうでもいいことを聞いてほしい

自意識のジレンマ

 それで前回の最後に言った玄関周りの怖い話であるが、書く前に解決してしまったので、概要だけ軽く話そう。

 少し前まで、我が家にAmazonの荷物を届けてくれるのは小柄な女性の配達員さんだった。それが1ヶ月半くらい前から若いお兄さんに変わったのだ。顔立ちが少し整っていたので、私はすぐに彼のことを覚えた。彼は親切で礼儀正しく爽やかで、いつもすごく丁寧に荷物の受け渡しをしてくれたが、一方で私は彼に2つの大きな問題を感じていた。1つは、荷物や伝票の受け渡しの度に私の手に触れてくること。そしてもう1つは、玄関のドアを勝手に大きく開けてしまうことである。

 前者については説明の必要がないだろう。今までたくさんの配達員さんがうちに荷物を届けてくれたが、どんなサイズの荷物だろうとお互いの手が触れたことなどなかった。たとえ相手がちょっとしたイケメンだろうと、知らない人間に触られるのは気持ちが悪い。

 そして後者についてだが、他の配達員さんが相手の場合、荷物の受け渡しは必ず①伝票を渡される ②伝票を書く ③荷物を受け取る の順で行われる。しかしその若い男性の場合、①と③が逆で、先に荷物を渡してくるのだ。そして荷物を先に渡して空いた手で何をするかというと、玄関のドアを押さえておいてくれるのだが、このときドアを明らかに不必要な幅まで開けてしまうのだ。具体的には、60°くらいだろうか。玄関のほぼ正面に立ち、部屋の奥を覗けてしまうくらいの幅である。そして私が伝票を書いているあいだ彼は、もう隠す素振りもなく、部屋の中をガン見しているのだ。

 正直めちゃくちゃ怖かった。1度目は比較的大きな荷物だったので、気のせいかな?とも思えたのだが、2度目の小さな荷物のときでも同じことが起きたので「これはダメだ」と思った。以降しばらくAmazonは控えていたのだが、最近どうしてもAmazonでしか手に入らない物があったので注文してみたところ、配達員が、前の小柄な女性配達員さんに戻っていた。彼は元々臨時でこのエリアを担当していたのかもしれないし、あの様子だといつもあんな感じで配達をしていそうなので、別のところからクレームが来たのかもしれない。

 とにかく、変わってくれてよかった。もしまた彼が届けに来たときは一旦居留守をして、然る後本部にクレームを入れよう。

 

 それにしてもこういう問題というのは、問題を問題だと認識するまでに、長い時間を要してしまうことが多い。いま文章に書き起こしてようやく「やっぱあれヤベーよな」と思うことができたが、問題に直面していた当時は「これっておかしいのかな、考えすぎかな?でもやっぱりちょっと変だよな…?」と悩みに悩んでいた。こういうのは、セクハラを受けたときにもよく陥る現象だ。こんなの自意識過剰かな?いちいち気にする方がおかしいのかな?という考えと、セクハラに対する嫌悪感で板挟みになり、いたずらに精神を磨り減らしてしまう。

 2年ほど前にバーでバイトをしていたとき、店長からセクハラじみた扱いを受けたことがあった。事あるごとに手、肩、首、腹などを触られるのである。私はこの時もそれがセクハラであるのか、それとも店長に悪気はなくただのスキンシップであるのかと大いに悩み、友人たちに何度も話して「やっぱりキモいよね?おかしいよね?」と確証を得た上で、彼に対して触らないで欲しいと、はっきりとした態度と言葉で示した。

 私はこのときまで、セクハラは『される側』にも問題があると思っていた。それまでも電車で軽い痴漢にあったことは何度もあり、その度に咳払いをするなり舌打ちをするなりすればすぐに追い払うことができたので、セクハラでいつまでもめそめそしている人たちは、嫌なことを嫌と言えない弱い人たちなのだと思っていたのだ。

 しかし実際にセクハラをされて分かったが、不特定多数の人(味方になってくれる可能性もある)がいる電車内で、自分と全く関係ない人によってされる『痴漢』と、同じコミュニティの中で顔も名前も知っている人間によってされる『セクハラ』には、「嫌だ」と言うための勇気の必要量に天と地ほどの差があった。

 その上驚いたことに、私が勇気を振り絞って「触るな」とはっきり口で言っても、彼にはほとんど通じなかったのだ。言われた後は多少しょんぼりしていたが、少しするとまた元に戻ってしまう。最終的に、店長がセクハラをやめるより先に私の方が耐えられなくなり、マネージャーに告げ口をした上でこのバイトを辞めたのだが、その後マネージャーからキツく叱られたにもかかわらず、店長は結局女性店員に対する接し方をあまり変えなかったらしい(直後は大げさなほどに距離を取ったりしていたが、徐々に元に戻っていったそうだ)。

 つまり、私は言葉と態度ではっきりと「嫌」と伝え、さらに店を辞めるまでして気持ちを表明したのに、それらの行動は店長の心を一切動かさなかったということである。

 それ以来、私はずっと、あの時どうして私の「嫌」が店長に伝わらなかったのか考えている。考えて考えて、そして最近、ある1つの仮説を立てた。題して、『セクハラするやつとビニ傘盗るやつ、考え方が似てる説』である。

 

 この話は長くなるので、一旦ここで切る。次はその仮説について詳しく説明したいと思う。

 

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