オン ザ ソファ

一人きりで暮らしているから、どうでもいいことを聞いてほしい

ひとでなしジャパン

 先日金融庁から、「人生100年時代に備えた計画的な資産形成を促す報告書」が発表された。平たく言えば、老後に年金だけで生きようとすると数千万円の赤字が出るから、その分を今のうちから貯めておきなさい、ということである。

 もちろん我らゆとり世代の中に、これしきの発表で取り乱すような軟弱者はいなかったことだろう。小学生の頃から『 “ツボ型” の人口 “ピラミッド” 』とかいう意味不明な図を見せつけられてきた我々である。年金なんて、仕組みを聞いたその瞬間から「私たちは貰えないだろうな」と諦めモードに入っていた。

 

 SNSでは、「こんなに政治がムチャクチャなのに、なんでみんな行動しないんだ?本当にヤバいってことにまだ気が付かないのか?」みたいな発言をよく見かける。確かに、フランスを始めとするヨーロッパ諸国や、つい先日世界的ニュースになった香港と違って、日本人はデモやストをほとんどしない。やったとして、人が全然集まらない。

 先の発言は日本人のそういった面を糾弾する意図を含むものである。今こそみんなで力を合わせて国を変えていくべきなのに、なんで誰も声を上げないのか、行動しないのか、若者に至っては投票にすら行かないではないか。日本人はバカだ、マヌケだ、根っからの奴隷気質だ、口を大きくあんぐり開けて、奇跡を待っているだけの怠け者だ──────。

 

 

 

 はたして、本当にそうだろうか。

 

 

 

 「日本の若者は政治に興味がない」

 しょっちゅう耳にする言葉である。確かに、総務省が出している衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移のグラフを見ると、一番右側、つまり私を含む昨今の20代の投票率は他の世代に比べて顕著に低い。

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 しかしタイトルにもあるように、これは年代別投票率の『推移』を示すグラフである。グラフ横軸の中央を見ると、平成8年、つまり今の40代が20代だった頃から既に、若者の投票率は現在と変わらない数値に落ちている。それにグラフ全体を見れば一目瞭然のことだが、時代の流れとともに投票率が下がっているのは、全ての世代で共通していることなのだ。昭和51年、20代の頃に61%も投票率があった今の60代ですら、現在の投票率は当時の60代より10%以上下がっている。

 これは「若者の政治離れ」ではない、「日本人の政治離れ」なのだ。

 特徴的な教育プログラムがもたらした便利な“ディス”アドバンテージのおかげで、現代社会における大抵の悪い風潮は私たち若者の問題として取り沙汰される。『ゆとり』のレッテルは、若い世代に肩身の狭い思いをさせると同時に、中高年の社会を見渡す目を強く曇らせたのだ。

 

 では、なぜ日本人は政治に興味がないのだろうか?SNSで言われているとおり、他国が呆れるほどに愚かで鈍い怠け者だから、投票にも行かないし、デモもストもしないのだろうか?

 

 そんなことはないんじゃないか、と私は思う。海外生活の経験がないので残念なことに根拠が0なのだが、他国の人々に比べて日本人がそれほどアホで怠けているとは、私にはどうしても思えないのだ。これについては材料が少なすぎてこれ以上考えを深めることができないため、ちょっと視点を変えてみよう。逆に、なんで諸外国の人々はデモを起こすことができるのだろうか?

 

 私がデモを起こしたいとか、参加したいと思わない理由は以下の通りである。

 

 ① 費用が高くつく(首都までの交通費・宿泊費など)

 ② 知らない人と集団行動をするのが怖い(中には暴漢や痴漢も紛れていそう)

 ③ 反政府的運動に良いイメージがない

 

 ③だけは、日本人に特有の価値観であるかもしれない。私が以前住んでいた学生寮には、中核派という左翼組織(要は、国を良くするために革命を起こそう!と考えている人たち)に属する学生が何人か住んでいた。彼らは時おり国や大学当局への抗議の名目のもと大学構内でバリスト(バリゲート・ストライキの略。建物を封鎖して機能を麻痺させる戦術)を行っていたが、彼らに対する他の学生たちの視線は基本冷ややかなものであった。「暇やな」「ほんと迷惑」「そんな暇あったら就活しろ」そんな感じだ。この国において反政府的運動とはむしろ、現実が見えていない人たちがやる、非社会的行動と見なされることが多い。

 

 しかし、①と②は他国の人々にも共通するハードルであるはずだ。ではどうして、日本人が越えられないこのハードルを、海外の人たちは越えていけるのだろうか。

 

 まぁ、歴史的背景とか教育体制とかそういう小難しい話に枝葉を広げていくこともできるのだろうが、もっともっと根本的な違いとして私が感じるのは、「海外の人ら、めっちゃ怒ってんな」というところである。

 彼らは怒っているのだ。国民を苦しめる、邪知暴虐の政策に激怒している。その怒りがさっき挙げた『やらない理由』を上回り、さらには奮起した国民同士に強い連帯感を与えるために、彼らはデモを起こすことができるのではないかと、そういう風に感じる。

 

 一方で、私たちはどうだろうか。

 少なくとも私は、年金制度の崩壊についてそんなに怒っていない。冒頭でも言ったとおり、私は義務教育の頃から年金がもらえるとは信じていなかった。怒りとは主に期待を裏切られたときに沸き上がる感情である。元々もらえないと思っていたものを、今さら「当てにするな」と言われても、怒るに怒れないのだ。

 しかし、怒っていないとは言え、危機感を感じていないわけではない。この国の未来がヤバいことなど、自分たちが経済的に苦しい思いをさせられることなど、とっくの昔から予想がついていた。だから私は、ブログをアフィリエイト化したり、趣味の創作をマネタイズしたり、つい最近はライターのバイトなんかを始めたりして、効果的かどうかはさておき、あの手この手でお金を稼ごうとしている。

 

 

 ここだ。ここに私の、私たち日本人の最大の特徴が現れている。私たちは危機感を感じたとき、『怒る』のではなく『働く』のだ。

 

 

 思うに、政府に言われるよりもずっと前から、この国の人たちはとても高い自助意識を持っていたのではないだろうか。夫婦で共働きしたり、一人でダブルワークしたり、資格をとってキャリアアップしたり、支出を抑えて節約したり……増える一方の経済的負担を、努力と労働によって一生懸命解決しようとしてきた。国が頼りないと感じたとき、「尻を叩いてしっかりさせなきゃ」ではなく「自分自身がしっかりしなきゃ」と考えるのがこの国の人々なのだ。

 『自分のことは自分で』 そういう考え方が、この国の上から下までを貫いている。だから政府は「自分の老後は自分で何とかして」とか言い出すし、それを聞いた国民も大して怒らない。そして同じ理由で、自助しきれない人たちに対する風当たりも強い。

 

 

 日本人はバカでもマヌケでも、奇跡を待つだけの怠け者でもない。私たちは私たちのやり方で、もう何年も前から戦い続けてきた。しかし、それもいい加減、限界に近づいてきたのではないかと感じつつある。

 年金制度の崩壊宣言は、日本人を怒らせなかった。怒らせなかったが、「あぁ、ほんとにもうダメなんだな」と、国への信用に大きなヒビを入れた。この先、そのヒビの隙間から、国にとって何よりも大事な国民が次々に流れ出していくのではないだろうか、と私は思うのだ。『優秀な人材』の流出は以前から嘆かれていたことであるが、今回のことがきっかけで、海外移住を思い描いた『普通の人』は少なくないはずだ。

 多くの日本人は、「国を良くすること」への関心は薄いかもしれないが、「自分の暮らしを良くすること」には大いに興味がある。言葉の壁が流出を阻んでいてくれるうちは良いが、段々と物価の安い東南アジアあたりに住む日本人が増え、外国語を覚えなくても日本語だけで生活できる地域が増えたらどうなるだろう。この国で働き子どもを産むはずだった若い独身層から順に、「いち抜け」していってしまうのではないだろうか。少子化どころか、この日本から国民自体が消えていってしまう日は、そう遠くないように思える。

 

 

 

 

 既にだいぶ長くなっているが、長くなったついでに余談もしてしまおう。

 さっきチラッと出てきた中核派であるが、寮で一緒だった中核派の学生たちは国の将来を本気で憂いていると同時に、どうやら1950~1960年代に盛んだった学生運動に憧れているようだった。ゲバ文字や白ヘル、ノイズが混じる古いメガホンなんかを好み、活動の際にはよくそれらを利用していた。

 そんな彼らを、わざわざヨーロッパから研究しにやってきた留学生もいた。世界の学生運動について研究していて、中核派の活動を観察するため(なのか単に気に入ったからかは知らないが)寮生でもないのに寮に入り浸っていた彼は、中核派についてこう言っていた。

 

 「あの人たち、言ってることは間違ってないよ。でもやり方がダサいから誰も聞かないしついていかない」

 

 確かに、あんまりキラキラしすぎても叩かれるだろうが、政治活動とはまず人心を集めることが第一であるはずだから、スタイリッシュであるに越したことはないのかもしれない。

 私が知らないだけで、新しい政治的組織は国内で次々に生まれているらしい。もしかすると日本がスカスカ海綿体国家になってしまう前に、見目麗しく快活で、ピアノジャズなんかをBGMに軽妙洒脱な演説をかます政治家が、国中を席巻することがある……かもしれない。

 

 

 

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 しばし待たれよ。

 

 

 

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