オン ザ ソファ

一人きりで暮らしているから、どうでもいいことを聞いてほしい

勘さえ鈍ければ

 じゃあ宣言通りBLと、ついでに夢小説の話でもしようか。

 

 BLとはボーイズラブ、男性同士の恋愛模様を描いたコンテンツの総称である。一方で夢小説とは二次創作の一種であり、既存の作品の登場人物と自分(あるいは自己投影ができるキャラクター)の恋愛模様を描いた小説の総称である。多分『ハリー・ポッター 夢小説』とかで検索すれば、そういう作品が山と出てくるはずだ。

 

 中高生の頃、私はインターネットでこれらのBL小説や夢小説をよく読んでいた。何でかって訊かれたら、それはもう1から10までエロのためである。もしかすると今回はBLと夢小説の話というより、私の青春時代におけるエロ回顧録になるかもしれない。

 

 今でこそ洋モノAVをこよなく愛する私であるが、わりと最近まで、私の主なエロ摂取源は小説であった。というか、映像・画像がダメだった。なぜかと言うと、私は小学校高学年~成人するくらいまで、男性の裸が苦手だったのだ。

 

 

 事の発端は、15年ほど前まで遡る。

 

 

 当時小学5年生だった私はその日、8歳年上の姉の部屋に勝手に入り、本棚を物色していた。年の離れた妹である私は親にも姉にも随分甘やかされており、家族の誰かのテリトリーを侵犯したり、あまつさえ我が物顔で寛いだりするといった暴挙が、日常的に許されていたのだ。姉がたくさん持っていた漫画本も、粗末に扱ったりしなければ自由に読ませてもらえた。だから私はあのときも、いつも通り留守中の姉の部屋に入り、いつも通り漫画を借りようとした。ただ一つだけ違ったのは、あの日、私はいつも読んでいた少年少女向けの漫画ではなく、本棚の一番下に並べられた、少し大人向けの漫画に目を向けたのだ。

 

 あの段にしまわれていた漫画のラインナップを、今でも覚えている。『破天荒遊戯』、『xxxHOLiC』、『最遊記』、『阿佐ヶ谷Zippy』、そして『蟲師』だった。これらの漫画は絵がちょっと怖かったり、読んでみても内容がよく理解できなかったりしたので普段はスルーしていた。しかしその日の私は、なんとなく目についた蟲師を手に取り、そして1巻を読み切った。

 

 面白いと感じたし、内容もそれなりに理解できていたと思う。タイトルからして小難しそうなその漫画を「面白い」と感じたことで、自分が少し大人になったような気がした。何より上の段の少年・少女漫画はとっくに読み飽きていたので、新しく読める漫画が増えたことが嬉しかった。

 

 そうして上機嫌で蟲師の1巻を棚に戻そうとしたとき────この時点こそが、私の運命の分かれ目であった────私は、ある小さな違和感に気が付いた。

 

 蟲師の単行本のサイズはB6判(表紙が大体13×18cm)であるのに対し、その隣に入っていた阿佐ヶ谷Zippyの単行本のサイズはA5判(表紙が大体15×21cm)である。つまり、両方の単行本を本棚の奥まで差し込んだなら、背表紙と背表紙の間に2cmほどの段差ができるはずなのだ。しかしこのとき、2冊の背表紙の間にできた段差は2cmより明らかに小さかった。

 

(後ろに何か挟まってるのかな?)

 

 ごく自然にそう考えた私は、しまわれていた本を何冊か引っ張り出して、本棚の奥を調べた。

 

 出てきたのは、これまたB6判の漫画本だった。馴染みのある『りぼん』や『花とゆめ』のコミックスよりも一回り大きいものの、『純情ロマンチカ』というタイトルや、表紙の画風からして、少女漫画の類であることはすぐにわかった。表紙には顎の尖った教師風の男性と学ラン姿の学生が寄り添いあっている絵が描かれていたが、『花ざかりのきみたちへ』および『桜蘭高校ホスト部』(両方とも男装した女子高生が主人公の少女漫画)を読んだことがあった私は、「あぁ、そういう系か」としか思わなかった。

 

 不自然極まりない方法で収納されていたその本を目の前にしても、幼い私は一切の不信感を抱かなかった。何かの拍子に落ちちゃったのかな?と思った程度である。私には男兄弟がなく、普段読んでいる漫画も『浦安鉄筋家族』とか『ハムスターの研究レポート』とかだったので、“やましい本を隠す”という文化に親しみがなかったし、そもそも“やましい本”が漫画という形でも存在するということを知らなかったし、まして、あの穏やかで優しい私の姉が“やましい本”を隠し持っているだなんて、夢にも幻にも思うわけがなかったのである。

 

 私は蟲師の続巻を一旦放置して、その漫画を流し読みし始めた。サイズの大きい漫画=大人向けの漫画という認識があったので、大人の少女漫画がどんな感じなのか気になったのだ。

 美咲という名前のボーイッシュな主人公が、表紙の男性と一緒に住むことになる……という序盤の流れを見て、(あぁこれは、早いうちに風呂場とかで女だとバレるパターンだな)と確信した私は、自分の予想が正しいことを確かめてやろうと、そのシーンめがけてパラパラとページをめくった。セリフは読まず絵だけを追いかけ、物語のアウトラインを眺めていたそのとき、『それ』は何の前触れもなく、私の目に飛び込んできた。

 

 

 表紙で勝気そうな笑みを浮かべていたあの男性が、主人公を押し倒し、主人公のズボンの前から取り出した何かを口に含んでいる。

 

 そういうシーンが、突如私の目の前に広がったのである。

 

 

 私は日常に潜む小さな違和感を手がかりに、隠匿されたエロ漫画を見つけ出すような勘の良いガキだったが、多分もう少し勘の悪いガキだったとしても、男性が何を咥えているかは察しがついたと思う。

 

 真っ先に思ったのは、主人公について、「なんで女なのにチン◯◯がついてるの?」ということだった。〇〇チンを目のあたりにしても、主人公が女だという私の思い込みはすぐには消えなかった。LGBTに関する教育などまるで受けていない20世紀生まれのガキにとって、同性同士の恋愛というのはそれくらい想定の範囲外にあることだった。

 

 問題のページに指を挟んだまま、冒頭から漫画を読み返してようやく、私は主人公の美咲が男であり、この漫画が男同士の恋愛を描いたものであることを理解した。ただそれを理解してもなお、チ〇〇ンを口に含む行為の意味はよくわからなかった。男性が主人公に意地悪をするという雰囲気で行われていることであり、実際に主人公も嫌がっていることから罰ゲーム的なものかとも思ったが、「どう考えてもチ〇チ〇を口に含む方が罰だろ」という認識がまた私を混乱させた。

 

 よせば良いのに、私は漫画を読み進めた。この行為の意味を理解するヒントが見つかるかもしれないと思ったのだ。そして、はじめは反目しあっていた2人がなんやかんやで仲良くなり、恋に落ちたその先に、答えは待っていた。セック◯である。

 

 そのシーンについて語ることはそれほどない。というか語れない。裸になって絡み合う2人の姿を見た瞬間に漫画を閉じてしまったため、あまりちゃんと見ていないのだ。

 さっきのシーンでは両者きっちり服を着ていたのでよくわからなかったが、さすがに2人とも裸になっていれば、◯ックスという言葉は知らなくても「エロいことをしている」ということはよくわかった。

 

 手に持っているこの本が「エロい本」だとわかった途端、恥ずかしいというより、空恐ろしい気持ちになった。あの2人のどちらともしれない、白い背中が目に焼き付いて離れない。すぐさま本を元の場所に戻し、はじめと変わっている部分がないか入念に確認した後、私は姉の部屋から逃げ出した。姉がエロ本を持っていたことについてどうこう思うより、エロ本を読んだことが姉にバレるのが怖かった。

 

 

 

 これが私の人生におけるBLとの、ひいてはエロとの初邂逅である。

 

 近年、コンビニからエロ本が無くなったり、女性のボディラインが強調されたイラストのポスターが非難されたりして、公共の場からエロを排除する風潮が強くなっているように感じられるが、小さいうちから少しずつ、目の端だけでもエロに触れておくのは、わりと大切なことなのではないかと私は思う。「こういうのがエロいものなんだ」という認識が本人の中にあれば、いざエロいものを前にしたとき、「エロいものを見るぞ」と覚悟を固めるか、あるいは「怖いからやめよう」と回避することができるのだ。逆にエロに関する知識が全くないと、エロ動画サイトに迷い込んだときなどに「なんかカッコいいかも!」と字面だけで判断し、マジックミラー号の動画を再生してしまったりする危険がある。

 

 

 さて、ここまでが私の「20歳を超えるまで男性の裸がダメだった理由」のPart. 1である。話が長い上に逸れまくったので、みんな忘れていたことだろう。私も忘れていた。男性の裸に苦手意識を覚えるようになった原因はもう一つあるのだが、こっちは前にもこのブログで話したことがあるのでサクッと行こう。ガチムチパンツレスリングである。

 白いブリーフ一丁のヨーロッパ人男性2人が、「オウッ!オウッ!オウッ!オウッ!」とオットセイのような声を上げながら、互いのパンツを掴み合いのたうち回る──────そんな動画を見たとき、先のBL事変からぼんやりとあった男性の裸に対する苦手意識が、私の中で決定的なものとなった。その日以来、私は男性の裸、特に色白で体格の良い人の背中側を見ると、あの人間性を失った「オウッ!オウッ!オウッ!オウッ!」が耳に蘇り、食欲、性欲、睡眠欲の全てが著しく減退するという意味不明の呪いにかかってしまったのである。

 

 

 

 長くなり過ぎたので話をまとめよう。要するに私は、まだ子供の時分にBLエロ漫画とガチムチパンツレスリングの2つをノーガードで喰らったダメージから、その後6、7年ほど男性の裸体にトラウマを持っていたということである。

 

 それで、そもそもなんでこんな話をし始めたんだったか。御託に時間をかけ過ぎて本筋が思い出せなくなったので、軌道修正は次回に行うこととしよう。

 

 

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