オン ザ ソファ

一人きりで暮らしているから、どうでもいいことを聞いてほしい

よく考えて決めましょう

 ミッドサマーを観た。1年以上前に、映画館で。

 ひたすらに美しい風景としゃかりきにグロテスクな展開が話題だったので、「いいねぇ」と思い、観た。

 

 真夏のスウェーデンが舞台になっているので、南国とはまた違う淡い緑色の森と、優しい空の青色と、草原に咲く小さな花たちを見ると実際に現地へ行きたくなったし、ふやけて膨らんでいたり、スイカみたいに割れていたりする精巧な屍たちを観ると、「ハイビジョンで映すな!」と言いたくなった。

 

 今からざっくりあらすじを説明するから、観る予定のある人は、以下の話を聞かないでほしい。

 

 

 

 

 

 まず主人公は修士→博士に進学する直前の大学院生の女性で、つい最近家族を全員亡くしてしまった天涯孤独の人でもある。

 大きすぎるストレスで精神がすっかりまいってしまっていた彼女は、彼女の彼氏とその友人たちから誘われて、スウェーデンのとある山村で催される、夏至のお祭りに参加することになった。

 

 公共交通機関はおろかコンクリートさえ見当たらない、ファンタジー系のRPGに出てくるような本気の村であるせいか、村の外から祭りに参加したのは主人公一行と若いカップルだけの計7人だけだった。

 排気ガスとドブネズミの糞で汚れた都会からやって来た主人公たちは、その村を取り囲む山や草原の優しい色にいたく感動していた。しかし、そこはやっぱりスリラー映画なので、どんなにのどかな風景の中でも、人はガンガン死んでいく。

 

 

 初めの死者は2名、その村の老人たちだった。神妙な顔で崖の上に立った彼らは、村長的な人の合図の後、次々に崖から身を投げたのだ。

 頭から落ちた老婆と対照的に、足から落ちてしまった老爺の方は落下した後もまだ息をしていて、恐らく治療をすれば助かるであろう彼に他の村人たちがとどめを刺すところを、7人の招待客たちはまざまざと見せつけられた。

 

 当然、招待客の過半数は帰りたがった。主人公とその彼氏、若いカップル、そして彼氏の友人の1人はすぐにでも村を出ようと主張したが、この村の出身者であり、一行をこの旅行に誘った友人は「そういうもんだから」と平然としており、また博士論文を書くために、この村の祭りについて調査しに来た友人は、当然博論が書きたいので残りたがった。

 

 そして色々あって誰も帰れないまま一夜を明かし、ここまでくれば想像がつくと思うが、このあたりからぼちぼち招待客が消え始めた。

 

 まず若いカップルの男の方が消えた。「彼が私に黙っていなくなるはずがない」と怒鳴り散らす女の方に対し、村人は「車に乗って1人で帰った」の一点張りをする。実際乗ってきた車ごといなくなっているので、彼女は最終的に村人の車に乗せてもらって帰ることにした。その後、彼女が再び生きて登場することはなかった。

 

 次にお調子者がハニートラップにかけられて消え、主人公の彼氏はトチ狂って「俺もこの村の祭りで博論書く」と言い出し、博論を書きたい奴は村の大事な聖書みたいなのを盗み読もうとしてボコボコにされた。

 

 

 招待客の中で生き残っているのはもう主人公と彼氏だけだが、このくらいには2人ともストレスでおかしくなっちゃってるので、おかしくなった勢いのまま物語はクライマックスに突入する。

 

 まず彼氏は、村娘の一人とセックスさせられる。なぜか全裸の若~熟年女性たち10人くらいに囲まれながらセックスさせられる。あれは村の風習の一環なのか、それとも彼氏の気分を盛り上げようとした女たちの粋な計らいなのかわからないが、プロの男優以外はなかなか頑張れないだろうその環境の中、老女の手押しピストンサポートの甲斐もあって、彼はなんとか最後までやる遂げることに成功した。

 

 一方その頃主人公は、村の若い娘たちによるダンス競争に参加させられていた。ダンスと言っても地面に突き立てられた棒状のオブジェの周りを、村娘たちが円になって走り回り(猛スピードのかごめかごめをしているイメージ)、転んだ奴から脱落という持久力勝負みたいなものだった。主人公はこのゲームを、特に伏線もなかった純粋な健脚によって制覇し、見事祭りの女王の座を手にする。

 

 

 最終的に、女王となった主人公の選択によって彼氏はしびれ薬を飲まされ、熊の毛皮(というか死骸?)を着せられ、さらに有志の村人2名とともに生きたまま焼き殺されてしまって、この映画は終了である。

 

 

 

 そもそもなんでこの村の人たちが招待客を殺したり勝手に自殺し始めたりしたのかというと、それは7~80年に一度執り行われるの儀式のためであったらしい。10人前後殺して焼くと村は安泰だかなんだか、そういう信仰に主人公らは巻き込まれたわけである。

 ちなみに主人公の彼氏がセックスさせられたのは、村に外の血を入れるためだそうだ。山奥の村なので外から人が来ず、ほっとくと村中が親戚だらけになって遺伝的によくないということらしい。

 

 もちろん、この村の出身者であった主人公の彼氏の友人は(ややこしい)、そもそも儀式の生け贄にするために彼氏や主人公を誘ったのであり、結果的に生け贄だけでなく外の血(彼氏)や女王(主人公)を引き込むことになったので、村の偉い人にすごく褒められていた。

 

 

 

 

 

 しかし、この映画で最も心に残るシーンは、件のピストンサポートを除外するなら、物語の中盤で彼氏がトチ狂って「俺もこの村の祭りで博論書く」と言い出すシーンだろうか。

 奇をてらって言っているわけではないわけでもないが、博士課程について聞きかじったことのある人間なら、彼氏のこの発言はけっこう印象に残ると思う。

 

 そもそも【博論を書くための調査をしにこの村に来た友人】に面と向かって「俺もこの村の祭りで博論書く」と言うのは相当ヤバいことであって、例えるなら友だちが描こうと思っている漫画の構想を聞いて、「俺もその構想で漫画描く!」と言い出すくらいヤバい発言である。良識のある人間ならまず思わないことであるし、常識のある人間なら思っても口に出さないだろう。

 しかも彼は「は?パクんなよ」と真っ当にブチギレる友人に対して「手伝うから共著にしよう」と持ちかけるのだが、これは例えるなら、夏休みの間コツコツと自由研究を進めてきた友だちに向かって、ラスト1週間で「手伝うから連名にしてよw」と頼むくらい恥知らずなことである。私は博士課程やってないし文化人類学の学徒であったこともないので正確なところはわからないが、多分そうだと思う。

 

 

 

 とにもかくにもミッドサマー、良い映画だった。

 次はミッドサマーと同じタイミングで観た、パラサイトの話をしようかな。

 

 

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 しばし待たれよ。

 

 

 

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