オン ザ ソファ

一人きりで暮らしているから、どうでもいいことを聞いてほしい

全ての点は線で繋がる

 随分前に書いた『1人で(往生)できるもん』という記事で、私と酒の席で「一緒に住もうよ」と言って盛り上がった二人の友人の話をしたのだが、実はその二人が去年結婚して、今は私と同じ大阪で仲睦まじく新婚生活を営んでいる。

 斯くしてフラグは見事に回収され、その記事のタイトル通り私はこの身一つで人生の荒波を乗り切っていく覚悟を新たにしたわけであるが、どういうわけだか結婚した2人のうち嫁の方は、私をペットとして家庭に迎え入れることで「3人で住む」という計画を叶えようとしているらしく、たまに会うと事あるごとに「とりあえず今日は泊まりにおいでよ」と勧誘してくる。当然、そんな世にも奇妙な人権侵害を許すわけにはいかない。何が何でも彼女らの住まいには近寄らず、徹底抗戦に尽力する所存である。

 

 先日は、そんな二人と一緒にEXPOCITY(エキスポシティ)に行ってきた。EXPOCITYというのは、大阪府吹田市の万博記念公園に隣接する複合型商業施設のことであり、ららぽーとや映画館などが入っている、ベッドタウンによくあるアレのことである。私は東京多摩西部、何処に出しても恥ずかしくない大ベッドタウンの生まれであるため、梅田周辺の魔窟のような駅ビル群よりも、ららぽーとやイオンモールのような場所の方が遊び場としてはなじみ深い。整然と並ぶ小さな店の数々をふらふらと冷やかして回るだけでも随分楽しめる。気の合う友人たちとなら尚更だ。

 しかし途中で立ち寄った雑貨屋で、婿(むこ)の方がおもむろにサンプルの水筒を強く締めて嫁に手渡したかと思うと、「この人、オレが締めたフタ開けられないんだよ(笑)」と言って惚気始めたときは本当にイライラした。(ちなみに、嫁は普通にフタを開けていた。)さっきは彼らの住まいには何が何でも近寄らないと言ったが、その決意も忘れて「こいつらんちのベランダでビバークしたろかな」と思ったほどである。

 

 

 

 さて、もちろんそんなイカれたメンバーで構成された我々が、わざわざ休日のモールへウインドウショッピングなんて生温いことをしに行ったはずがない。『ニフレル』で行われている、謎解きイベントに参加するために行ったのである。

 ニフレルとは、EXPOCITYの一角にある博物館のことだ。博物館と言っても化石だとか歴史的な何某かなどが展示してあるわけではなく、水族館のゾーンがあったり動物園のゾーンがあったり、記憶にないが美術館のゾーンがあったりするらしい、かなり新しいタイプの博物館である。展示方法も凝っていた。例えば淡水生物のゾーンは照明が少なく、ほぼ真っ暗になっている。まばらに配置された小さな水槽は淡い光に照らされていて、観客はその明かりを頼りに順路を辿るのだが、スポットライトを浴びた魚の影が水槽の外をひらひらと泳いでいるのを見たときは、その演出方法の巧みさにいたく感動した。もしかして、美術館の要素というのはああいう部分のことを指すのだろうか?

 

 (ここから先は、ニフレルで12月まで行われている謎解きイベントのネタバレを含むため、参加の予定や希望がある人は聞かないことをおすすめする。)

 

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 謎解きイベントには、それぞれストーリーというものがある。参加者が謎を解く理由を与えるためである。現在ニフレルで行われている謎解きイベントのストーリーは、「未来から来た少女、サキの捜し物を手伝う」というものであった。

 メガネモチノウオの巨大さに慄いたり、昼寝するワオキツネザルを見てはしゃいだり、意外と人語を理解しているペンギンたちに驚いたりしながら謎を解いていき、とうとう私たちは最後の謎に辿り着いた。少女サキは、わざわざ未来から何を捜しにやってきたのか?私はそれまでに得たヒントから論理的に「アカテガニ」という答えを導き出したのだが、「最後の答えが蟹ってのはちょっと」という嫁の意見と「とりあえずヒントをもう一度見に行こう」という婿の勧めを渋々受け入れ、私たちは元来た順路を戻ることにした。

 最も答えに関係があると思われるヒントは、照明が少ない暗い場所にあった。とりあえず写真を撮って明るいところで考えようと婿の方がスマホを取り出したのだが、フラッシュの焚き方がわからないと言ってもたついた。不甲斐ない彼を、嫁と私が「早くしてよ~」「どきな、私が撮るから!」と野次っていたそのとき、突然私たちの後方からまばゆい光が差した。後ろで待っていた知らないお姉さんが、自分のスマホのライトをそっと当ててくれたのだ。

 そういう方法もあるのか……と感心しながら我々は明るいところへ移動して、最後の謎に挑んだ。頭脳明晰な婿の方、謎解きがガチで得意な嫁の方、そして力強い相槌を打つ私。3人の協力によって、最後の謎は呆気なく解けた。

 用紙に散りばめられた平仮名を線で結んでいくと、やがて一つの答えが浮かび上がる。

 

 “ お も い や り ”

 

 ──────思い遣り!!

 未来から来た少女サキは、生物多様性の保たれた美しい自然、美しい未来を守るため、人々の“想い”を見つけにやってきたとかなんとか、そういう話だったわけである。

 しかし、そんな作り話の中のことなどどうでも良かった。私たちの脳裏を過ぎったのは遠い未来のことなどではなく、つい先ほど起きたことだった。

 フラッシュという慣れない操作で困っている婿の方を責め立てる嫁と私、そしてヒントを明るく照らしてくれた見知らぬお姉さん。彼女が持っていて、私たちが持っていなかったものこそが、思い遣りだったわけである。

 

 結婚生活とは愛し合う二人が協力して未来を築いていくことであり、そのために最も大切なものは、相手を慮る心、すなわち思い遣りに他ならない。今回の件でそれを改めて学んだ嫁と婿は、きっとどんな困難も良い思い出に変え、二人で乗り越えていくことができるだろう。私は二人の幸せな未来を信じて疑わない。

 

 ビバークはする。

 

 

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